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TECHNO BOOKS 先端研究者・技術者が語るA

玄 丞恷教授の 医用高分子材料講義
実践 バイオマテリアル
臨床応用への道


著者からのメッセージ 
                                   

                      

 私は,1969年4月より京都大学に在籍し,2012年3月末に定年退職するまで約43年間の長期にわたって学び,生体材料学に関する研究と教育を行い,日本人をはじめ韓国や中国留学生など数多くの研究者を育ててきた。その間,約400報の研究論文,総説や著書(分担),および100件以上の特許出願を行うことができた。また,私の研究指導と共同研究により,約70名の研究者が工学博士,医学博士,薬学博士の学位を取得した。
 さらに,基礎研究を発展させることにより,次のようなメデイカルデバイスが臨床応用でき,国の研究投資に対する社会的還元を行うことができた。
 1)ポリグリコール酸(PGA)吸収性外科用縫合糸
 2)歯周組織再生治療膜(GTRメンブレン)
 3)吸収性モノフィラメント外科用縫合糸
 4)吸収性縫合補助材
 5)耐摩耗性に優れた人工関節摺動部材
 6)吸収性人工硬膜
 7)高強度・高弾性率吸収性骨折治療材
 8)人体に優しい義歯床
 9)再生医療用幹細胞凍結保存液
などである。
 学者にとって研究論文はもちろん,もっとも貴重な財産であり評価の基準対象であるが,研究者に対する真の評価は,学問と産業にどれだけ貢献したかで評価されるべきであると思う。また,生体材料学は応用科学の一つであるため,論文のみでは価値がなく実用化されてこそ真価が問われるであろう。その見地からすると,私は誰よりも多くの社会貢献を達成した研究者の一人であると自負している。これらの業績は京大の恵まれた研究環境の中で生まれたものであり,これまでの共同研究者や関係者に心から感謝している。
 21世紀は未知と不確実性の時代といわれているが,急激な社会の自由化とIT化に伴い,大学も国際社会とのコミュニケーションが必須となるグローバル化へ飛躍することが強く求められている。このような環境の中で,若い学生には大きな期待が寄せられている。自分自身の未来を切り開くのは新しい知識である。この新しい知識を作るのは「創造力」である。この創造力は自分でしか養えないであろう。溢れる情報の中から真に有用な情報を得る「判断力」を会得することも重要である。人生には失敗も成功もあり,失敗は苦しいが,そのとき迷わず行動を起こし,自分は他人とどのように違うのか,自分の個性を磨くことが学生生活にとって最も大切なことだと思う。21世紀の諸問題に取り組むには,個性のある創造性を育て自分の人生のシナリオは自分で書くことが肝心だろう。自分の可能性を信じ,実り多い学生生活に全力を投入し,輝かしい未来を自分で切り開くことが大切だ。
 私は2013年末に京大を定年退職した後,京都工芸繊維大学繊維科学センターの特任教授に就任し,これまでの研究をさらに進展させるとともに,再生医科学の基礎と臨床応用に貢献できるよう,またこれらの研究を通じて独創性を有する21世紀型の研究者を育てられるよう,生涯現役の精神を持って研究と教育に邁進する所存である。

本書は,テクノネット社 瀬野武氏,八代啓一氏による,私の研究に関するインタビューが出発点であった。インタビューをもとに,加筆,訂正を行い,さらに最新の研究成果も,できるだけ加えるようににした。
バイオマテリアルの実用化には,さまざまな壁があるが,それらを一つ一つクリヤして臨床応用に結びつけるのは容易ではない。そのために何が必要か,本書から読みとっていただければ幸いである。

                                    玄 丞恷




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